明治奇聞
河出文庫の表紙が新しくなったのは、
元々集めていた人にとって嘆かわしいことですが、
これがきっかけで、以前本屋で見つからなかった本が出てくると嬉しいですね。
この本もそんな本の一つです。
以前
滑稽漫画館を見て
宮武外骨という人に興味を持ちました。
この人は本当に凄い!
明治・大正時代に政治家や金持ち、
社会、若者への批判を自らの雑誌「滑稽新聞」や「スコブル」で繰り返し批判、
筆禍29回、入獄4回に渡るも
決してめげずにエネルギッシュに活動した人です。
すばらしい反骨精神ですね。
自らを狂人と言っていたそうですが、これほどの人はもう出ないと思います。
「明治奇聞」は彼のもう一つの顔である、
明治文化の研究と
そのきっかけになった関東大震災の記録を本にまとめたものです。
関東大震災で貴重な文化財が失われたことに
危機感を持った宮武外骨は、明治文化研究会を創設します。
一過性の流行や庶民の遊びなどは、記録に残りにくいものです。
彼がこういう本にまとめてくれたおかげで、
明治文化の研究は随分楽になったのではないでしょうか。
「明治20年代には、大きな眼鏡をかけることが流行した。」とか
「明治14年に宮地茂平という人が、
『日本政府の支配を受けない自由人になりたい』
という書類を太政官に提出した。」とか
「明治12年に馬上で政治演説をした人がいた。」など
文明開化という混乱した時代の様子が、盛り沢山です。
演説の歴史や新聞の歴史も、一味違った角度から取り上げられています。
関東大震災の様子を記録した「震災画報」は
宮武外骨のジャーナリスト魂を見た思いがしますね。
地震で自宅の家具が倒れ、墓地で野宿したり
自警団の配置監督をしながら10日間で
「震災画報」を作り上げ発行するのですからたいしたものです。
その感想が
「次回からはモー少しヨイものを作り上げたいと思うている。」
なのには、驚くと共にそのしぶとさに思わず笑ってしまいました。
「震災画報」には、地震とその後の津波で起こった出来事をはじめ、
地震の混乱で飛び交ったデマや震災後の被災者の生活、
さらには新聞の誤報や、政府の怠慢まで事細かに書いてあります。
震災後にここまでよく取材できたなと感心します。
宮武外骨をはじめとする庶民のしぶとさ、したたかさが伺えます。